Takubo K, , Vieth M, Aida J, Matsutani T, Hagiwara N, Iwakiri K, Kumagai Y, Hongo M, Hoshihara Y, Arai T. Histopathologic diagonosis of adenocarcinoma in Barrett's esophagus. Digest Endosc 2013; in press.
国内で増加が予想されるバレット食道とバレットがん(腺がん)に関する総説論文です。日本では30年前から行われている胃がんや食道がんの内視鏡切除術がようやく米国でも行われるようになりました。このため、日本で経験した試行錯誤が米国でも繰り返されています。米国の医師の参考になるように、日本における試行錯誤の結果を記述しました。さらに、本総説の中ではバレット食道、バレットがんと胃噴門がんの区別と、欧米における高度異型病変を研究グループの原著論文を引用して詳しく解説しています。最後に高度異型という欧米の用語に正当な根拠がないことを述べています。つまり、日本で使用されている高分化型腺がんという用語を使用すべき根拠を示しています。
Kaiyo Takubo, Hiroyasu Makuuchi, Miwako Arima, Junko Aida, Tomio Arai, Michael Vieth. Lymphknoten Metastasen bei Plattenepithelfrühkarzinomen des Ösophagus. Der Pathologe 2013; in press.
消化管に発生する早期がんの日本における研究は、世界に誇ることができる高いレベルにあります。しかし、この点に関しては、ようやく欧米で認識されてきた段階と考えています。本論文は食道に発生する扁平上皮がんの深達度(どの程度の深さまでがんが達しているか)やその他の病理所見(顕微鏡で見たがん組織の様子、リンパ管侵襲など)とリンパ節転移の頻度(危険性)に関する日本語で発表された論文を集大成してドイツ語雑誌用にドイツ語で発表しました。日本の消化管の専門医には知られた事実です。しかし、ドイツを含めた欧米では未だ十分な理解が得ていません。本研究グループからのオリジナルなデータのみからなる論文ではありません。しかし、人命に直結する国内の優れた業績を紹介することは、医師である研究員の仕事の一つであると考えています。
特別な内視鏡で食道の細胞を生きたまま観察してがんの診断ができるようになります
Kumagai Y, Kawada K, Yamazaki , Iida M, Odajima H, Ochiai T, Kawano T, Takubo K. Current status and limitations of the newly developed endocytoscope GIF-Y0002 with reference to its diagnostic performance for common esophageal lesions. J Dig Dis.2012; 13: 393-400.
日本の食道がんや胃がんに対する医療は世界最高で他国の追随を許しません。がんの最終診断は、がんの組織を内視鏡検査などで体外に取り出して、臨床検査技師が顕微鏡用の組織標本を作製し、病理専門医が顕微鏡を視てがんの有無を最終的に診断します。診断結果が出るまでに、通常1週間程度の時間が必要です。研究グループの5人が病理専門医です。以上のプロセスを省略して、特別な内視鏡(エンドサイトスコープ)で直接生きた癌細胞を視て、がんの診断を行う試みが成功してきています。内視鏡検査と同時に組織を採らなくても診断ができます。特に食道の扁平上皮癌の診断には有用です。エンドサイトを使用した一連の共同研究が本研究グループと多くの病院の消化器内科医や外科医とで行われています。患者様の診断を待つまでの時間の短縮と医療費の抑制につながります。早期癌では診断と治療が1日で終わることも可能です。これらの成果はすでに7報の論文となっています。今回新たな研究論文が出版されました。
図 食道がんの通常内視鏡、特別な内視鏡(エンドサイトスコープ)、病理組織像の対比
(a) 通常内視鏡で観察すると、白色調で軽度隆起性の病変を認めます。(b) 特別な内視鏡(エンドサイトスコープ)で拡大して観察すると、核の密度は増加し、分布が不均一となっています。それぞれの核は大きさや形が不揃いで色素の染まり方もばらばらです。(c) 病理組織学的に食道の扁平上皮を全層性に異型細胞により置換されており、扁平上皮癌と診断されます。
この標本は食道?それとも胃から切除されたもの? 柵状血管の役割
Aida J, Vieth M, Ell C, May A, Pech O, Hoshihara Y, Kumagai Y, Kawada K, Hishima T, Tateishi Y, Sawabe M, Arai T, Takubo K. Palisade vessels as a new histologic marker of esophageal origin in ER specimens from columnar-lined esophagus.Am J Surg Pathol.2011; 35: 1140-1145.
欧米と日本では食道と胃の移行部(食道胃接合部)の内視鏡検査時の定義が異なります。例えば米国消化器病学会(AGA)のホームページでは、食道胃接合部は胃粘膜ヒダの上端です。日本では柵状血管下端です。しかし、患者様にバレット食道があるときは、米国の定義が不正確であり日本の定義の優れていることをすでに報告しました(Digestion 2009; 80: 248-257)。一方、内視鏡による切除サンプルでは、粘膜と粘膜下層しか切除されないため、肉眼検査では食道か胃か区別できません。そこで病理組織学検査によりバレット食道か胃なのかを区別する必要があります。なぜなら、バレット食道と胃は癌化の危険性が異なり、両者から発生した癌は予後が異なる可能性があるからです。本邦の内視鏡医が食道下端に存在する柵状血管(図1)の見えなくなる部位を食道胃接合部とする理由は、胃には柵状血管がないからです。そこで、この血管を組織標本上の指標として利用できるか検討しました。その結果、この柵状血管は粘膜固有層に存在する径100μm以上の静脈でした。胃粘膜内に100μm以上の静脈はありませんでした。これまで組織学的指標としてきた (1) 固有食道腺とその導管 (2) 扁平上皮島 (3) 粘膜筋板の二重化 の3つ(図2)に加え、この血管所見を指標に加えると、内視鏡により切除されたほぼすべての検体で、由来の臓器を区別できます。この論文の中で米国の定義はきわめて不正確であることも指摘しています。以上の食道に固有な4つの指標は、ほぼ全てを私達が研究し役割を解明し、実際の外科病理分野で使用されています。米国の医学部の病理レジデントにも講義され病理診断の役に立っています(Henry Appelman教授,Gregory Lauwers教授私信)。
図1 正常食道下部の内視鏡像
(Best Prac & Res Clin Gastroenterol. 22: 569-583, 2008)
食道の長軸に平行に多数の血管が柵状配列しています。縦走血管とも呼ばれています。
口側(図の周辺)の中部食道ではネットワーク状の血管が見えます。
図2 バレット食道の組織像とバレット食道に固有な組織指標
食道類基底扁平上皮癌の臨床病理学的特徴(総説)
Arai T, Aida J, Nakamura K, Ushio U, Takubo K. Clinicopathologic characteristics of basaloid squamous carcinoma of the esophagus. Esophagus 2011; 8: 169-177.
食道癌は高齢者に発生する癌です。この癌の中で特殊な組織像を示すものの一つに類基底扁平上皮癌があり、通常の扁平上皮癌よりも悪性度が高いことが知られています。この総説論文では、類基底扁平上皮癌に関する内視鏡像や予後などの臨床的事項、顕微鏡で観察される組織像などが網羅的に記述されています。この癌は食道全悪性腫瘍の4%以下の頻度であり、普段、医師がであうことは少ないと思われます。だからこそ,この癌を持っている患者様の主治医にとっては必読の論文となるでしょう。
バレット食道腺がんは噴門腺型粘膜から発生する
Kaiyo Takubo, Junko Aida, Yoshio Naomoto, Motoji Sawabe, Tomio Arai, Hiroaki Shiraishi, Masaaki Matsuura, Christian Ell, Andrea May, Oliver Pech, Manfred Stolte, Michael Vieth. Cardiac rather than intestinal-type background in endoscopic resection specimens of minute Barrett adenocarcinoma. Hum Pathol. 2009; 40: 65–74.
欧米ではバレット食道腺がんが急速に増加して深刻な問題となっています。日本でも増加傾向にあると言われています。正常食道は舌などの口腔粘膜と同様に扁平上皮により覆われています。バレット食道は粘膜が腸類似(腸型粘膜)や胃類似(噴門腺型粘膜)の円柱上皮に置き換わっている状態を言います。バレット食道腺がんの発生母地は腸型粘膜とされていました。この考えはドグマでした。しかし、ドイツ人の粘膜切除術検体の研究から、噴門腺型粘膜からより多く発生することを証明しました。この論文と他グループからのコホート研究により米国消化器病学会(AGA)のバレット食道の定義は、2012年から我々の主張に沿った形に変更される可能性があります。そうすれば日本食道学会と英国消化器病学会の定義と同様になることとなります。現在、すでにAGAのバレット食道の定義には、粘膜の種類と関係なく円柱上皮化食道でもよいとする追記があります。バレット食道を持つ患者様に行われていた意義の乏しい多数の生検の実施を防ぎました。同時に日本の消化器病学、食道学のレベルの高いことを証明できたと考えています。