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この標本は食道?それとも胃から切除されたもの? 柵状血管の役割

Palisade vessels as a new histologic marker of esophageal origin in ER specimens from columnar-lined esophagus. Aida J, Vieth M, Ell C, May A, Pech O, Hoshihara Y, Kumagai Y, Kawada K, Hishima T, Tateishi Y, Sawabe M, Arai T, Takubo K. Am J Surg Pathol.2011; 35: 1140-1145.

欧米と日本では食道と胃の移行部(食道胃接合部)の内視鏡検査時の定義が異なります。例えば米国消化器病学会(AGA)のホームページでは、食道胃接合部は胃粘膜ヒダの上端です。日本では柵状血管下端です。しかし、患者様にバレット食道があるときは、米国の定義が不正確であり日本の定義の優れていることをすでに報告しました(Digestion 2009; 80: 248-257)。一方、内視鏡による切除サンプルでは、粘膜と粘膜下層しか切除されないため、肉眼検査では食道か胃か区別できません。そこで病理組織学検査によりバレット食道か胃なのかを区別する必要があります。なぜなら、バレット食道と胃は癌化の危険性が異なり、両者から発生した癌は予後が異なる可能性があるからです。本邦の内視鏡医が食道下端に存在する柵状血管(図1)の見えなくなる部位を食道胃接合部とする理由は、胃には柵状血管がないからです。そこで、この血管を組織標本上の指標として利用できるか検討しました。その結果、この柵状血管は粘膜固有層に存在する径100μm以上の静脈でした。胃粘膜内に100μm以上の静脈はありませんでした。これまで組織学的指標としてきた (1) 固有食道腺とその導管 (2) 扁平上皮島 (3) 粘膜筋板の二重化 の3つ(図2)に加え、この血管所見を指標に加えると、内視鏡により切除されたほぼすべての検体で、由来の臓器を区別できます。この論文の中で米国の定義はきわめて不正確であることも指摘しています。以上の食道に固有な4つの指標は、ほぼ全てを私達が研究し役割を解明し、実際の外科病理分野で使用されています。米国の医学部の病理レジデントにも講義され病理診断の役に立っています(Henry Appelman教授,Gregory Lauwers教授私信)。

図1 正常食道下部の内視鏡像
(Best Prac & Res Clin Gastroenterol. 22: 569-583, 2008)
食道の長軸に平行に多数の血管が柵状配列しています。縦走血管とも呼ばれています。
口側(図の周辺)の中部食道ではネットワーク状の血管が見えます。

図2 バレット食道の組織像とバレット食道に固有な組織指標

A. 固有食道腺とその導管を含む
B. 扁平上皮島および固有食道腺を含む
C. 粘膜筋板の二重化を認める
矢印: 柵状血管
Eg: 固有食道腺終末部
D: 固有食道腺導管
Sq: 扁平上皮島
Mm: 深層の粘膜筋板 深層の筋板は粘膜固有の筋板である
mm: 浅層の粘膜筋板 浅層の筋板はバレット食道に反応性に生じる