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組織切片FISH法による研究

胆道閉鎖症患児の肝細胞のテロメアは短縮している

Hepatocellular telomere length in biliary atresia measured by Q-FISH. Sanada Y, Aida J, Kawano Y, Nakamura K, Shimomura N, Ishikawa N, Arai T, Poon SS, Yamada N, Okada N, Wakiya T, Hayashida M, Saito T, Egami S, Hishikawa S, Ihara Y, Urahashi T, Mizuta K, Yasuda Y, Kawarasaki H, Takubo K. World J Surg. 2012; 36: 908-916

本研究では、肝移植時に摘出した胆道閉鎖症患児の肝臓と同世代の正常児の肝臓を標本として、組織Q-FISH法でテロメア長を比較し、胆道閉鎖症患児の肝細胞のテロメア長が明らかに短い(老化が進んでいる)ことを証明しました。胆道閉鎖症は出生1万に1人の稀な疾患であり、出生後から乳児早期に発症する閉塞性黄疸を主徴とし、放置すれば胆汁うっ滞性肝硬変から肝不全に進行し死亡する小児難治性疾患のひとつです。現在、小児生体肝移植の対象となる疾患の約70%が胆道閉鎖症でありますが、移植実施時期に関しては、施設間で異なるのが現状であり、蛋白合成能やビリルビン値、凝固機能などで代用(PELDスコア:Pediatric end-stage liver disease score)することにより予備能を把握しています。本研究では、PELDスコアが低く、肝予備能が保たれていると考えられていた胆道閉鎖症患児においてもテロメア長が正常児に比べて有意に短縮しておりました。細胞老化や細胞障害の指標とされるテロメア長が短い胆道閉鎖症患児は、将来的に肝不全に至る可能性が高いことを示しております。したがって、本研究は、テロメア長の測定により、肝細胞の障害程度や肝予備能を把握することができ、より正確で具体的な肝移植適応時期を決定できることを示した世界で初めての研究です。

図1

図2

解説:胆道閉鎖症患児と正常対照群肝組織のテロメア長の解析結果を箱ヒゲグラフで表したものです。サザンブロット法による解析結果(上:図1)では、組織全体でテロメア長を解析するため、多量の炎症性細胞(リンパ球や組織球)、線維芽細胞が含まれる胆道閉鎖症の肝組織では、正常組織と差が見られません。しかし、組織切片を用いたFISH法による解析結果(下:図2)では炎症性細胞や線維芽細胞を除外して肝細胞のみを解析でき、正常対照群よりも患児の肝細胞ではテロメア短縮が起きていることがわかります。