コラム
留学生活(2)論文の査読について
研究者として生きていくためには、自らの研究成果を原著論文として報告することが求められます。なぜこの研究を行ったのか、どのような方法で実施したのか、その結果はどうだったのか、さらに今後どのように役立つ可能性があるのか――これらを順序立てて英文論文としてまとめる必要があります。そして、論文を科学雑誌に投稿し、同じ分野の研究者による査読を受け、多くの場合、修正を加えた後に採択され、正式に原著論文として認められます。
査読は、その分野の専門家である世界中の研究者によって行われますが、論文の著者には査読者が誰なのかは分かりません。また、多くの場合、手厳しい指摘を受け、論文の修正を求められます。厳しい場合には、その雑誌の原著論文としての掲載基準を満たしていないと判断され、拒絶(リジェクト)されることもあります。
査読者から指摘された点を一つひとつ理解し、適切に修正する作業は、精神的に非常に負担が大きいものです。時間と手間をかけて実験し、ようやく書き上げた論文に対して、時には厳しい批判や叱責とも取れるコメントを受け取ることもあります。そんな中で冷静に今後の対応を考え、必要な追加実験を行うのは、何度経験しても辛いものです。私自身も「要修正」の通知が届くと、すぐに査読者のコメントを確認しますが、最初はなかなか冷静に受け止めることができません。実際に落ち着いてコメントを読み返し、対応策を考えられるようになるのは、2~3日経ってからのことが多いです。
私が留学して本当に良かったと最近特に思うのは、査読への対応を考える際に、留学先の教授ならどのように考えるだろうかと想像できることです。留学先の教授は、査読への反応が非常に速く、いつもその日のうちに返答文を書き終え、研究員に追加実験などを指示していました。査読者のコメントに対して、どのように対応すればよいのかを考えるとき、査読者はどこに不満を感じ、何を求めているのかを見極める際に、「あの教授ならどう考えるだろう」と思いを巡らせることができるのは、私にとって大きな支えになっています。経験豊富な米国の研究者の思考や行動を間近で見る機会を得たことは、査読対応だけでなく、研究活動を進める上でも大いに役立っていると感じています。 (T. I.)