業績一覧

がんの上皮間葉転換研究

ヒト膵癌細胞株MIA PaCa-2の培地中に浮遊する細胞の性質を解析

Characterization of the metastatic potential of the floating cell component of MIA PaCa-2, a human pancreatic cancer cell line. Norihiko Sasaki, Fujiya Gomi, Fumio Hasegawa, Kazumi Hirano, Masakazu Fujiwara, Toshiyuki Ishiwata.  Biochem Biophys Res Commun. 2020, https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0006291X1932248X

MIA PaCa-2細胞は65才、男性の膵管癌から樹立された細胞株で、タイムラプスで経時的に観察すると、プレートに接着した紡錘形のMIA PaCa-2細胞が球形となり細胞分裂して、紡錘形にもどることがわかりました。一方で、一部のMIA PaCa-2細胞には球形のまま存在したり、プレートから剥離して浮遊する細胞もあることが明らかとなりました。この浮遊細胞をflow cytometryで検討したところ約90%が生存しており、浮遊細胞の一部は再びプレートに接着し、紡錘形細胞に変化することを発見しました。このように、細胞の形態を変化させる培地中に浮遊している細胞の性質を解析しました。浮遊細胞は接着細胞に比べ、細胞外基質との接着を担うインテグリン類の発現、薬剤耐性を担うATP-binding cassette (ABC) transportersの発現が低下していました。一方、vimentin以外の検討したepithelial to mesenchymal transition (EMT)マーカーは高発現していました。浮遊細胞はG2/M期の細胞比率が接着細胞より高く、遊走能や細胞間接着は接着細胞よりも低いという特徴がありました。さらに、三次元培養下で浮遊細胞は接着細胞よりも抗がん剤(gemcitabine, 5-FU, and abraxane)に感受性が高いことがわかりました。浮遊細胞はEMT markerが高いところから、今後の転移研究に役立つ可能性があり、3次元培養下で抗がん剤への耐性が低いことからは、細胞の浮遊化に伴い抗がん剤耐性を低下する機構が存在するため、この機構を研究することにより新たな治療方法が見つかる可能性があると考えています。同一細胞でさえ様々な性質を示すという事は、癌という形態的にも機能的にも異なる細胞集団には著しく異なる性質の細胞が混在しており、今後の膵癌研究は、この多様性を考慮すべきであることを強く示しています。