諸臓器のがん

食道・口腔がんの研究

論文業績紹介

  • バレット食道における腺がんの病理組織診断(総説)

    Takubo K, , Vieth M, Aida J, Matsutani T, Hagiwara N, Iwakiri K, Kumagai Y, Hongo M, Hoshihara Y, Arai T. Histopathologic diagnosis of adenocarcinoma in Barrett’s esophagus. Digest Endosc 2014 May; 26 (3): 322-30.

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    国内で増加が予想されるバレット食道とバレットがん(腺がん)に関する総説論文です。日本では30年前から行われている胃がんや食道がんの内視鏡切除術がようやく米国でも行われるようになりました。このため、日本で経験した試行錯誤が米国でも繰り返されています。米国の医師の参考になるように、日本における試行錯誤の結果を記述しました。さらに、本総説の中ではバレット食道、バレットがんと胃噴門がんの区別と、欧米における高度異型病変を研究グループの原著論文を引用して詳しく解説しています。最後に高度異型という欧米の用語に正当な根拠がないことを述べています。つまり、日本で使用されている高分化型腺がんという用語を使用すべき根拠を示しています。

  • 食道の扁平上皮がんのリンパ節転移について(総説)

    Kaiyo Takubo, Hiroyasu Makuuchi, Miwako Arima, Junko Aida, Tomio Arai, Michael Vieth. Lymphknoten Metastasen bei Plattenepithelfrühkarzinomen des Ösophagus. Der Pathologe, March 2013, 34 (2):pp148-154.

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    消化管に発生する早期がんの日本における研究は、世界に誇ることができる高いレベルにあります。しかし、この点に関しては、ようやく欧米で認識されてきた段階と考えています。本論文は食道に発生する扁平上皮がんの深達度(どの程度の深さまでがんが達しているか)やその他の病理所見(顕微鏡で見たがん組織の様子、リンパ管侵襲など)とリンパ節転移の頻度(危険性)に関する日本語で発表された論文を集大成してドイツ語雑誌用にドイツ語で発表しました。日本の消化管の専門医には知られた事実です。しかし、ドイツを含めた欧米では未だ十分な理解が得ていません。本研究グループからのオリジナルなデータのみからなる論文ではありません。しかし、人命に直結する国内の優れた業績を紹介することは、医師である研究員の仕事の一つであると考えています。

  • 特別な内視鏡で食道の細胞を生きたまま観察してがんの診断ができるようになります

    Kumagai Y, Kawada K, Yamazaki , Iida M, Odajima H, Ochiai T, Kawano T, Takubo K. Current status and limitations of the newly developed endocytoscope GIF-Y0002 with reference to its diagnostic performance for common esophageal lesions.  J Dig Dis.2012; 13: 393-400.

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    日本の食道がんや胃がんに対する医療は世界最高で他国の追随を許しません。がんの最終診断は、がんの組織を内視鏡検査などで体外に取り出して、臨床検査技師が顕微鏡用の組織標本を作製し、病理専門医が顕微鏡を視てがんの有無を最終的に診断します。診断結果が出るまでに、通常1週間程度の時間が必要です。研究グループの5人が病理専門医です。以上のプロセスを省略して、特別な内視鏡(エンドサイトスコープ)で直接生きた癌細胞を視て、がんの診断を行う試みが成功してきています。内視鏡検査と同時に組織を採らなくても診断ができます。特に食道の扁平上皮癌の診断には有用です。エンドサイトを使用した一連の共同研究が本研究グループと多くの病院の消化器内科医や外科医とで行われています。患者様の診断を待つまでの時間の短縮と医療費の抑制につながります。早期癌では診断と治療が1日で終わることも可能です。これらの成果はすでに7報の論文となっています。今回新たな研究論文が出版されました。

    図 食道がんの通常内視鏡、特別な内視鏡(エンドサイトスコープ)、病理組織像の対比

    (a) 通常内視鏡で観察すると、白色調で軽度隆起性の病変を認めます。(b) 特別な内視鏡(エンドサイトスコープ)で拡大して観察すると、核の密度は増加し、分布が不均一となっています。それぞれの核は大きさや形が不揃いで色素の染まり方もばらばらです。(c) 病理組織学的に食道の扁平上皮を全層性に異型細胞により置換されており、扁平上皮癌と診断されます。 

  • この標本は食道?それとも胃から切除されたもの? 柵状血管の役割

    Aida J, Vieth M, Ell C, May A, Pech O, Hoshihara Y, Kumagai Y, Kawada K, Hishima T, Tateishi Y, Sawabe M, Arai T, Takubo K. Palisade vessels as a new histologic marker of esophageal origin in ER specimens from columnar-lined esophagus.Am J Surg Pathol.2011; 35: 1140-1145.

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    欧米と日本では食道と胃の移行部(食道胃接合部)の内視鏡検査時の定義が異なります。例えば米国消化器病学会(AGA)のホームページでは、食道胃接合部は胃粘膜ヒダの上端です。日本では柵状血管下端です。しかし、患者様にバレット食道があるときは、米国の定義が不正確であり日本の定義の優れていることをすでに報告しました(Digestion 2009; 80: 248-257)。一方、内視鏡による切除サンプルでは、粘膜と粘膜下層しか切除されないため、肉眼検査では食道か胃か区別できません。そこで病理組織学検査によりバレット食道か胃なのかを区別する必要があります。なぜなら、バレット食道と胃は癌化の危険性が異なり、両者から発生した癌は予後が異なる可能性があるからです。本邦の内視鏡医が食道下端に存在する柵状血管(図1)の見えなくなる部位を食道胃接合部とする理由は、胃には柵状血管がないからです。そこで、この血管を組織標本上の指標として利用できるか検討しました。その結果、この柵状血管は粘膜固有層に存在する径100μm以上の静脈でした。胃粘膜内に100μm以上の静脈はありませんでした。これまで組織学的指標としてきた (1) 固有食道腺とその導管 (2) 扁平上皮島 (3) 粘膜筋板の二重化 の3つ(図2)に加え、この血管所見を指標に加えると、内視鏡により切除されたほぼすべての検体で、由来の臓器を区別できます。この論文の中で米国の定義はきわめて不正確であることも指摘しています。以上の食道に固有な4つの指標は、ほぼ全てを私達が研究し役割を解明し、実際の外科病理分野で使用されています。米国の医学部の病理レジデントにも講義され病理診断の役に立っています(Henry Appelman教授,Gregory Lauwers教授私信)。

    図1 正常食道下部の内視鏡像
    (Best Prac & Res Clin Gastroenterol. 22: 569-583, 2008)
    食道の長軸に平行に多数の血管が柵状配列しています。縦走血管とも呼ばれています。
    口側(図の周辺)の中部食道ではネットワーク状の血管が見えます。

    図2 バレット食道の組織像とバレット食道に固有な組織指標

    A. 固有食道腺とその導管を含む
    B. 扁平上皮島および固有食道腺を含む
    C. 粘膜筋板の二重化を認める
    矢印: 柵状血管
    Eg: 固有食道腺終末部
    D: 固有食道腺導管
    Sq: 扁平上皮島
    Mm: 深層の粘膜筋板 深層の筋板は粘膜固有の筋板である
    mm: 浅層の粘膜筋板 浅層の筋板はバレット食道に反応性に生じる
  • 食道類基底扁平上皮癌の臨床病理学的特徴(総説)

    Arai T, Aida J, Nakamura K, Ushio U, Takubo K. Clinicopathologic characteristics of basaloid squamous carcinoma of the esophagus. Esophagus 2011; 8: 169-177.

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    食道癌は高齢者に発生する癌です。この癌の中で特殊な組織像を示すものの一つに類基底扁平上皮癌があり、通常の扁平上皮癌よりも悪性度が高いことが知られています。この総説論文では、類基底扁平上皮癌に関する内視鏡像や予後などの臨床的事項、顕微鏡で観察される組織像などが網羅的に記述されています。この癌は食道全悪性腫瘍の4%以下の頻度であり、普段、医師がであうことは少ないと思われます。だからこそ,この癌を持っている患者様の主治医にとっては必読の論文となるでしょう。

  • バレット食道腺がんは噴門腺型粘膜から発生する

    Kaiyo Takubo, Junko Aida, Yoshio Naomoto, Motoji Sawabe, Tomio Arai, Hiroaki Shiraishi, Masaaki Matsuura, Christian Ell, Andrea May, Oliver Pech, Manfred Stolte, Michael Vieth. Cardiac rather than intestinal-type background in endoscopic resection specimens of minute Barrett adenocarcinoma. Hum Pathol. 2009; 40: 65–74.

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    欧米ではバレット食道腺がんが急速に増加して深刻な問題となっています。日本でも増加傾向にあると言われています。正常食道は舌などの口腔粘膜と同様に扁平上皮により覆われています。バレット食道は粘膜が腸類似(腸型粘膜)や胃類似(噴門腺型粘膜)の円柱上皮に置き換わっている状態を言います。バレット食道腺がんの発生母地は腸型粘膜とされていました。この考えはドグマでした。しかし、ドイツ人の粘膜切除術検体の研究から、噴門腺型粘膜からより多く発生することを証明しました。この論文と他グループからのコホート研究により米国消化器病学会(AGA)のバレット食道の定義は、2012年から我々の主張に沿った形に変更される可能性があります。そうすれば日本食道学会と英国消化器病学会の定義と同様になることとなります。現在、すでにAGAのバレット食道の定義には、粘膜の種類と関係なく円柱上皮化食道でもよいとする追記があります。バレット食道を持つ患者様に行われていた意義の乏しい多数の生検の実施を防ぎました。同時に日本の消化器病学、食道学のレベルの高いことを証明できたと考えています。

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共同研究

私たちの研究グループでは、高齢者に発症するさまざまな加齢性疾患について、研究所内外の研究者と共同研究を行なっています。

論文業績紹介

  • がんにおける長鎖非コードRNA, H19の発現とその役割(総説)

    Yoshimura H, Matsuda Y, Yamamoto M, Kamiya S, Ishiwata T. Expression and role of long non-coding RNA H19 in carcinogenesis. Front Biosci (Landmark Ed). 2018 Jan 1;23:614-625. Review. PubMed PMID: 28930564.

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    近年、全ゲノム解析やトランスクリプトーム解析の進歩により、タンパクに翻訳されない長鎖非コードRNAが注目されています。H19は初期に報告された長鎖非コードRNAの一つで胎生期に高発現していますが、成人の組織では極めて少量かまたは、発現しないとされています。これらのことから、H19は胎生期に重要な役割を果たしていることが示唆されます。一方で、乳がんや消化器がん、泌尿器系のがん、呼吸器のがんや脳腫瘍ではH19が高発現していることが報告されています。現在までの研究で、H19がさまざまながんの増殖、遊走、浸潤、転移に関与していることがわかっていますが、そのメカニズムは未だ完全には解明されていません。さらに血清中のH19の量が、一部のがん患者さんで増加していることからがんの診断や予後の予測に役立つのではと期待されています。この論文では、さまざまながんにおけるH19の発現とその役割について紹介しています。

  • 欧米で高度異形成(前がん病変)と生検診断されても浸潤癌である可能性があります

    Sakurai U, Lauwers GY, Vieth M, Sawabe M, Arai T, Yoshida T, Aida J, Takubo K. Gastric high-grade dysplasia can be associated with submucosal invasion: evaluation of its prevalence in a series of 121 endoscopically resected specimens. Am J Surg Pathol 2014 Nov; 38(11):1545-50.

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    日本でごく初期の食道がんや胃がんと病理組織診断されている病変は、欧米ではがんではなく、高度異形成や軽度異形成(いずれも前癌病変)と診断されています。この診断基準に差のあることは、日本人病理医や消化器科医、また最近では米国の医師の間に広く知られています。日本の診断基準は、がんが浸潤する前に早期に診断し早期治療を受けることができる点で患者にとって優れています。しかし、この点について米国の医師を説得できていませんでした。「がんだからがん」と説明なしに主張するだけだったからです。また、日本人の主張を強く書いた論文はまれでした。本研究グループは日本の診断基準が優れていることを4論文(雑誌)と2つの英文著書の中で強く主張して来ました。本論文は米国で最も権威のある外科病理に関する雑誌に採択されました。本論文中で、欧米では高度異形成とされる病変でも、浸潤がんの含まれていることを証明することにより、欧米の医師に、高度異形成はがんと診断すべきであることを説得できると思われます。米国人(ハーバード大学 Lauwers教授)も共同著者になっています。さらに、本論文に対する雑誌巻頭の論説は、共同著者のドイツバイロイトのVieth教授が書くことになっています。

  • 粥状動脈硬化症とミトコンドリアゲノムの遺伝子多型の関連

    Motoji Sawabe, Masashi Tanaka, Kouji Chida, Tomio Arai, Yutaka Nishigaki, Noriyuki Fuku, Makiko Naka Mieno, Aya Kuchiba, Noriko Tanaka Mitochondrial haplogroups A and M7a confer a genetic risk for coronary atherosclerosis in the Japanese elderly: An autopsy study of 1,536 patients. J Atheroscler Thromb 2011; 18: 166-175.

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    高齢者の血管病の代表である粥状動脈硬化症には遺伝的要因があることが分かっています。ミトコンドリアは細胞内小器官であり、エネルギーを産生すると共に、細胞にとって有害な活性酸素を産生します。ミトコンドリアゲノムの個人間のちょっとした違い(遺伝子多型)が、代謝・老化や病気と関連する可能性があります。そこでセンター病理解剖例1536例を用いて、冠動脈硬化症とミトコンドリアゲノム多型の関連を見たところ、ミトコンドリアハプロタイプA, M7aを有している人では,冠動脈硬化症が有意に強い事が分かりました。本研究により、粥状動脈硬化症の遺伝的要因の一部がミトコンドリアゲノム多型で説明できました。今後も粥状動脈硬化症の原因に結びつく遺伝子を同定する研究を行っていきます。

  • 高齢女性の盲腸・上行結腸に集積のみられる髄様型低分化腺がんはミスマッチ修復遺伝子のメチル化により発生する

    Tomio Arai, Yukiyoshi Esaki, Motoji Sawabe, Naoko Honma, Ken-ichi Nakamura, Kaiyo Takubo. Hypermethylation of hMLH1 promoter gene with absent hMLH1 expression in medullary-type poorly differentiated colorectal adenocarcinoma in the elderly. Mod Pathol 2004; 17: 172-179.

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    大腸がんは高齢者に好発するがんです。低分化腺がんは大腸がんの約5%を占めるに過ぎませんが、高齢女性の盲腸・上行結腸に好発します。このタイプのがんの特徴を調べたところ、遺伝子の繰り返し配列が不安定な状態(マイクロサテライト不安定性)を示すことが明らかになりました。その原因は,DNAの傷を修復する遺伝子(ミスマッチ修復遺伝子)の働きをオフにする現象がみられたからでした。一般に低分化腺がんは悪性度が高いといわれていますが、メチル化により発生した高齢者のがんは比較的おとなしいがんであることも明らかになりました。

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